小・中・高における国語授業の改革 文学作品・説明的文章を読む方法 -構成・構造、形象・論理、吟味・批評- の追究 科学的「読み」の授業研究会

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運営委員の実践

「大人になれなかった弟たちに…」の授業

(米倉斉加年・光村図書・中1)

小林義明(運営委員)

一 作品について

「大人になれなかった弟たちに…」は絵本を教材化したものである。絵は米倉斉加年自身が描いている。だが、文章としても独立した小説である。
 題名から考えると、「僕」の視点でとらえた弟の物語であるが、本文全体から見ると、子どもを守って苦労しながら戦争時代を生き抜いた母への思いが強い作品である。おそらく米倉自身の経験を下敷きにしていると考えられる。
 作品構造は、次のようになる。

  ○冒頭 (僕の弟の名前は……
   導入部
  
  ○発端 (あまり空襲がひどくなってきたので……
   展開部

  ○山場の始まり (ヒロユキは病気になりました。……
   山場の部

   ◎クライマックス
    (母が、大きくなっていたんだね、とヒロユキのひざを曲げて棺に入れ
     ました。そのとき、母は初めて泣きました。)
        
  ○ 結末 ……とうとう見ないままでした。)
   終結部

  ○ 終わり ……弟の死は一生忘れません。) 
 
 作品構造のとらえ方には、これと異なる見解も予想される。その違いはクライマックスの押さえ方である。
 前述の見解をAとすれば、Bは「でも、僕はかくれて、ヒロユキの大切なミルクをぬすみ飲みしてしまいました。それも、何回も…。」をクライマックスとする意見であり、Cは「弟は死にました。病名はありません。栄養失調です…。」をクライマックスとする意見である。
 Aは「母と弟」が物語の主軸をなすというとらえ方である。Bは「僕」を中心にすえたとらえ方である。Cは弟を中心に見るとらえ方である。喜岡淳治氏(成蹊大)はこの見解に立っている。B・Cは、作品の終わり「僕はひもじかったことと、弟の死は一生忘れません。」と対応しているが、「母」の形象が作品の中心にあることは否定できない。   

二 授業化の視点

 この作品を授業化すると、次のような授業構想が浮かび上がってくる。
 文章はわかりやすい。難語句は「桃源郷」ぐらいのものである。あとは、戦争にかかわる「B29」「防空壕」「配給」「疎開」「栄養失調」といった語句の説明や資料提示が必要になる。文章の特徴としては、反復表現が多い。
 構造よみに1時間とりたい。
「発端とクライマックスはどこか」という発問が有効である。「あまり空襲がひどくなってきたので、…」が発端だということは容易に把握できる。そこから疎開の場面に変わるからである。その前までの文は、段落が変わっても、次々と続いていて切れ目がない。「僕」と家族が置かれている戦争中の状況が描かれている部分である。ここまでを導入部とする。
 クライマックスをどこにするかは、前述したA・B・Cの意見に分かれることが予想される。しかし、Bの「ミルクのぬすみ飲み」は、構造よみによって導入部の事件設定であるとわかる。この事件が伏線となって、「僕」は入院したヒロユキを毎日見舞うようになる。贖罪である。そして、終わりの「弟の死は一生忘れません。」につながっていく。Bを消去したうえで、A・Cのどちらがクライマックスであるかを討論するとおもしろい。この作品のテーマが明らかになるからである。しかし、このような読み方に慣れていないクラスでは、深追いせずに保留し、次の形象よみに移る方がよい。
 導入部の形象よみでは、いつ・どこで・だれが・どうしたかを読み取る。そして、「ミルクのぬすみ飲み」事件をポイントに読み深める。
 展開部の形象よみでは、引越しの相談に行ったしんせきでの母の人物形象を読む。「そのときの顔を、僕は今でも忘れません。強い顔でした。でも悲しい悲しい顔でした。僕はあんなに美しい顔を見たことはありません。」を手がかりに読み深めたい。
 山場の部の形象よみでは、ヒロユキの死と入棺の場面を読むことが、クライマックスにかかわる読みとして重要である。しかし、「白い乾いた一本道を、三人で山の村に向かって歩き続けました。」の場面も深く読み取りたい。
 終結部と山場の部から作品のテーマが明らかになる。主題は「戦争で食べ物もなく、幼いままで大人になることができずに死んでいった子供たちへの鎮魂歌」である。「ヒロユキ」がカタカナ書きになっているのは、「幼さ」をあらわすとともに、「戦争で命を失った幼い子どもたち」を象徴的に表している。この読みと「大人になれなかった弟たちに…」の題名を結んで授業をまとめたい。

三 指導計画

指導時数 全6時間
第1時 範読(各自が発端とクライマックスを決める)
 構造よみ(発端とクライマックスを出し合う。発端を決定し、クライマックスは話し合いにとどめる。)
 語句指導(戦争に関わる語句調べを課題とする)
第2時 導入部の形象よみ
「ミルクのぬすみ飲み」をポイントに。
第3時 展開部の形象よみ
 母の人物形象を読み深める。
第4時 山場の部の形象よみ①
 ヒロユキの死・家に帰る場面の読みをポイントに
第5時 山場の部の形象よみ②・終結部の形象よみ
 クライマックスの読みを重点に
 感想文を原稿用紙一枚で書く(課題)
第6時 感想文を読みあう(グループ内と全体で)
 授業のまとめと評価

第5時の授業シュミレーション


 板書

「大人になれなかった弟たちに…」 米倉斉加年

 山場の部の形象よみ クライマックス

  母が、大きくなっていたんだね、とヒロユキのひざを曲げて棺に入れました。  そのとき、母は初めて泣きました。


T 今日の授業は?
P (一斉に)「大人になれなかった弟たちに…」
T の…
P 山場の部の形象よみ。
T の…
P クライマックス。
T ハイ。短く、一箇所、線引きすると…。
P 「そのとき、母は初めて泣きました。」
(板書のその部分に線引きする)
T もっと短く。
P 「泣きました。」
P 「初めて」
T どっち?
P (多数が)「初めて」。
(教師は、ゆっくり生徒の顔を見渡しながら、「初め て」の横に赤チョークで線を引く)
T 何が読めますか?三つ、個人でメモしなさい。時間は2分。
T やめて。学習グループで話し合います。3分。発言準備もしてください。
P ヒロユキが死んだことを初めて実感した。
P あまりに幼い子どもを死なせてしまった悔しさ。
P 父親に会わせてやることができなかった悲しさ。
P もう少し頑張れたのではないかと思う後悔。
P 精一杯頑張ったヒロユキのけなげさを感じ取った。
P 幼い命を奪った戦争への怒り。
T よく読めていますね。すばらしい。「初めて」ということは、それ以前には泣かなかったということだね。そう考えると、「母」はどんな人だったんだろう?
P 気の強い人だった。
P 勝気な人だったんじゃないかな。
P 勝気っていうんじゃなくて、意志の強い人だと思う。
P 疎開しようとした場面で、しんせきの人がいきなり「うちに食べ物はない」って言ったでしょ。そのとき、「母はそれを聞くなり、僕に帰ろうと言って、くるりと後ろを向いて帰りました」とあるから、物欲しさと誤解されるくらいなら相談する必要はないという強い人だった。その強い人が家族の死に出会って初めて泣いたんだから、情にもろい人だったんじゃないでしょうか。
P でも、死んだヒロユキをおんぶして帰ってきたとき、「ヒロユキは幸せだった。母と兄とお医者さん、看護婦さんにみとられて死んだのだから」と言って、涙は流していない。情にもろいとは言えないのでは…。
P ヒロユキが病院で死んだときも、涙は流していないよ。
T 「そのとき、母は初めて泣きました。」の「そのとき」っていつなのかな?
P あっ、そうかあ。「ヒロユキのひざを曲げて棺に入れ」たときだ。ヒロユキは大きくなっていたんだ。そうすると、悲しいから泣いたわけじゃないんだ。
P ヒロユキの頑張りに涙を流したんだ。
P そう言えば、田植えの手伝いに行ったとき、昼のご飯を食べないで「僕」たちに持ち帰ってくるとか…。
P 自分の着物と食べ物を交換して、母の着物はなくなったとか…。どんなに辛くても、家族を守る強さとか愛情が深い人だ。
P 「僕」は、ホッとしたんじゃないかな。母の言葉を聞いて…。
P すごい母親だなあ。
P 今は、こんな母親って、いないよなあ。
P できすぎ…。(小さな声)
T ちょっと、まとめておきましょう。
  クライマックスとは?
P 大きく変わるところ。
P 二つの勢力の関係が大きく転換したところ。(ノートを見ながら発言している)
T ハイ。大きく変わったのは?
P どんなに辛いことがあっても一度も涙を流さなかった母が、初めて涙を流したことへ変わった。
T では、「二つの勢力」とは?
P 母と弟。
P えっ、母と弟は一緒なんじゃないの?
  「母と弟」と○○、うまく言えないけど…。
P でも、母は、弟の命を守ろうとした人、弟は、戦争の犠牲になった人でしょ。
P 母も弟も戦争の犠牲者じゃないの?
P あっ、母と弟VS戦争か。
P 逆に言えば、幼い命を奪う戦争と、幼い命を守ろうとする家族。
T とすると、クライマックスから読めるテーマは?
P 結局、弟は死んだのだから、「幼い命を守ろうとする家族」は負けたことになる。
T だから、クライマックスのテーマは、「幼い命を救おうとする家族の必死の頑張りも、戦争という巨大な力によって打ち砕かれてしまう」ということになります。
 次に、終結部の形象よみに入ります。(略)
 課題を出しておきます。この作品の感想を400字の原稿用紙一枚に書いて、次回に提出してください。授業を終わります。

「大人になれなかった弟たちに…」の授業

一 作品について

「大人になれなかった弟たちに…」は絵本を教材化したものである。絵は米倉斉加年自身が描いている。だが、文章としても独立した小説である。
 題名から考えると、「僕」の視点でとらえた弟の物語であるが、本文全体から見ると、子どもを守って苦労しながら戦争時代を生き抜いた母への思いが強い作品である。おそらく米倉自身の経験を下敷きにしていると考えられる。
 作品構造は、次のようになる。

  ○冒頭 (僕の弟の名前は&hellip

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